外国人材を受け入れている企業からは、「一定のサポートを行っているつもりでも定着につながらない」「支援機関に依頼しているが離職が続いている」といった声が聞かれることがあります。
支援機関側としても、面談、日本語フォロー、生活支援、入管手続きなど、必要とされる支援を一つひとつ実施しているにもかかわらず、結果として離職が発生してしまうケースは少なくありません。こうした状況が続くと、企業側は「支援内容に不足があったのではないか」と感じやすくなり、支援機関側も「どこまで関与すべきなのか」と判断に迷う場面が生じます。
このような行き違いが起こる背景には、外国人材の定着を左右する要因が、十分に整理されないまま議論されているという構造があります。
実際には、定着率に影響を与える要素は一つではありません。その中でも特に大きいのが、「現場での受け入れ体制」と「日常生活の安定」です。支援機関はこれらを直接管理する立場ではありませんが、関わり方や支援の設計次第で、定着に対して一定の影響を及ぼすことは可能です。
本稿では、外国人材が離職に至る背景を「現場」と「生活」という二つの視点から整理し、企業と支援機関それぞれの役割を見直します。そのうえで、支援機関が定着支援のパートナーとして評価されるために意識したい実務上のポイントを解説します。
「辞める」という判断は、徐々に形成されていくことが多い
離職は突然決まるもののように見えますが、多くの場合、本人の中では時間をかけて検討されています。
最初は業務やコミュニケーションに関する小さな違和感から始まり、それが解消されないまま積み重なることで、「続けることが難しいかもしれない」という考えに至るケースが見られます。
例えば、次のような状況です。
- 指示の内容を十分に理解できないまま業務が進む
- 確認や相談のタイミングをつかみにくい
- 職場での関係性に距離を感じる
- 生活面での不安が解消されない
こうした状態が続くと、本人は周囲に負担をかけないようにと考え、困りごとを表に出しにくくなることがあります。その結果、支援機関や企業が状況に気づいた時点では、すでに本人の中で結論が固まりつつある、ということも珍しくありません。
このため、定着支援においては「問題が表面化してから対応する」だけでなく、「問題が大きくなる前に兆しを捉える」視点が重要になります。
定着率は「現場での体験」に左右される場面が多い
外国人材の離職理由を振り返ると、支援機関の対応不足が直接の原因になっているケースは、実はそれほど多くありません。
多くの場合、本人が日々過ごしている「現場での体験」が、少しずつ積み重なった結果として離職につながっています。
外国人材にとって、毎日接するのは支援機関ではなく、職場の上司や同僚です。そのため、定着を左右する要素も、現場での関わり方や環境に影響されやすくなります。
現場環境の小さなズレが、負担として蓄積する
現場で次のような状況が続くと、外国人材は少しずつ働きにくさを感じるようになります。
- 指示のスピードが速く、内容を確認しづらい
- 現場リーダーが外国人材への指導に慣れておらず、試行錯誤が続いている
- ミスが起きた際の指摘が感情的に受け取られてしまう
- 業務の覚え方が人によって異なり、基準が見えにくい
- 教育担当が固定されておらず、教え方にばらつきがある
- コミュニケーションの行き違いが、そのままになっている
- 質問や相談を遠慮してしまう雰囲気がある
これら一つひとつは致命的な問題ではないことも多いですが、日常的に続くことで、本人の中に負担として蓄積されていきます。
その結果、「仕事が合わない」「自分はここで続けられるのだろうか」といった不安につながることがあります。
「本人の問題」と見えやすい構造への注意
離職が起きた際、企業側では「本人の適性」や「忍耐力」の問題として整理されてしまうこともあります。ただ、実務の現場では、現場の仕組みや教え方が日本人前提のままになっていることが影響しているケースも少なくありません。
例えば、
- 「見て覚える」「空気を読む」ことが前提になっている
- 業務ルールや判断基準が暗黙知として共有されている
- 注意や指導の意図が十分に説明されていない
といった状況では、外国人材が戸惑いを感じやすくなります。
こうした環境は、誰かが悪いというよりも、これまでのやり方がそのまま続いている結果として生じていることが多いと言えます。
支援機関に期待される「現場への関わり方」
支援機関が定着に関与できる余地は、外国人材本人へのフォローだけに限りません。
現場での受け入れや育成が円滑に進むよう、間接的に支える役割も重要になります。
例えば、次のような関わり方が考えられます。
- 外国人材への指導で工夫できる点を、現場リーダーと共有する
- 入社後数か月間の育成の流れを整理し、現場と認識を合わせる
- 写真や図を用いたマニュアルを整備し、説明の負担を軽減する
- 現場リーダーと定期的に状況を確認し、違和感を早めに共有する
- 本人から出た悩みや不安を、現場に伝えやすい形で整理する
支援機関がこうした形で現場と関わることで、外国人材にとっての働きやすさが高まり、現場側の負担も軽減されるケースがあります。
定着を考えるうえでの現場の位置づけ
定着率は採用時点で決まるものではなく、入社後の現場での経験によって少しずつ形づくられていきます。
支援機関が「現場で何が起きているか」を理解し、必要に応じて現場を支える視点を持つことで、離職につながる要因を早い段階で調整しやすくなります。
現場を変えるというよりも、現場が無理なく回るように整える。その補助役として関わることが、定着支援における支援機関の一つの役割と言えるでしょう。
定着率には「生活の安定」も大きく関係している
外国人材の定着を考える際、どうしても仕事や職場環境に目が向きがちですが、実務の現場では「生活の安定」が影響しているケースも少なくありません。
日本で働く外国人材にとって、仕事と生活は切り離されたものではなく、どちらか一方が不安定になると、もう一方にも影響が及びやすくなります。
仕事が順調に進んでいても、生活面での負担が積み重なることで、結果的に離職につながることもあります。
生活上の不安は、表に出にくい
外国人材が直面しやすい生活上の課題には、次のようなものがあります。
- 住居契約や水道光熱費、通信契約などの手続きへの不安
- 寮やシェアハウスでの生活ルールや人間関係の行き違い
- 日本での交友関係が限られることによる孤立感
- 仕送りや貯蓄、送金など金銭管理に関するプレッシャー
- 日本語力が思うように伸びないことへの焦り
- 病気やケガをした際の相談先が分からない不安
これらは勤務時間外に起きている出来事であるため、企業や現場からは見えにくい傾向があります。そのため、問題が表面化したときには、すでに本人の負担が大きくなっていることも少なくありません。
生活の不安は、仕事への影響として現れやすい
生活面での不安が続くと、集中力の低下や気力の消耗につながりやすくなります。その結果、
- 仕事のミスが増える
- 周囲とのコミュニケーションが消極的になる
- 相談や質問をためらうようになる
といった形で、職場でのパフォーマンスに影響が出ることがあります。
このような変化は「仕事への意欲の問題」と捉えられがちですが、実際には生活面の負担が背景にあるケースも多く、原因を切り分けて考えることが重要になります。
企業側が感じている生活支援への距離感
企業の担当者が生活領域に対して慎重になるのは、自然なことでもあります。
- 業務時間外の対応が難しい
- 私生活への関与にどこまで踏み込んでよいか分からない
- 金銭やメンタルの問題は専門外で対応に不安がある
- 何かあったときの責任範囲が曖昧に感じられる
このため、企業側としては「生活面は重要だと分かっているが、自社だけでは対応しきれない」という感覚を持ちやすくなります。
支援機関が担いやすい「生活の下支え」という役割
生活支援は、すべてを個別対応で行おうとすると、支援機関側にも大きな負担がかかります。
そのため、実務としては「問題が起きたら対応する」だけでなく、「問題が大きくなる前に気づける仕組み」を整えることが重要になります。
例えば、次のような関わり方が考えられます。
- 定期的な簡易アンケートやチェックシートで、生活面の変化を把握する
- チャットや電話など、相談しやすい窓口を用意する
- 医療機関受診や行政手続きが必要な場面で、初期対応をサポートする
- 金銭管理や生活ルールについて、基本的な説明をあらかじめ行う
- 住居や共同生活に関するトラブルを、第三者として整理・調整する
こうした取り組みは、生活のすべてを管理するというよりも、「安心して相談できる土台」をつくることに近い役割です。
生活が安定すると、仕事の定着もしやすくなる
生活面の不安が軽減されると、外国人材は仕事に向けるエネルギーを保ちやすくなります。多少の業務上のつまずきがあっても、「相談できる」「立て直せる」という感覚があることで、離職という選択に直結しにくくなります。
定着率を考えるうえで、生活支援は現場支援と対立するものではなく、互いを補完する関係にあります。
支援機関が生活の安定を下支えすることで、企業や現場が本来注力すべき業務や教育に集中しやすくなる、という効果も期待できます。
支援機関に「任せきり」になることで、かえって定着が不安定になることがある
現場と生活の両方に課題がある状況で、企業が「支援機関が対応してくれるはずだ」と考えること自体は、決して不自然なことではありません。
人事・総務担当者にとって、外国人材対応は専門外の領域が多く、外部の支援機関に頼りたいと感じるのは自然な判断です。
一方で、支援機関への期待が大きくなりすぎると、意図せず役割のバランスが崩れてしまうケースがあります。その結果、定着支援が“後追い型”になり、離職を防ぎにくくなることがあります。
任せきりが生まれやすい背景
企業が支援機関に多くを委ねたくなる背景には、いくつかの事情があります。
- 現場が忙しく、教育やフォローに十分な時間を割けない
- 外国人材対応に関する知識や経験が社内に少ない
- 生活面や入管対応など、責任範囲が曖昧で不安が大きい
- 「専門家に任せた方が安全」という判断が働く
このような状況では、企業側が消極的になっているというよりも、「どこまで自分たちが関与すべきか分からない」という状態に近いことが多く見られます。
役割の偏りが生む、実務上の影響
支援機関が主に対応する構造が続くと、次のような状態が生じやすくなります。
- 現場の教育方法やコミュニケーションが見直されないままになる
- 生活面での違和感や初期サインを、企業側が把握しにくくなる
- 問題が顕在化してから支援機関が対応する流れが定着する
- トラブルが起きた際に、「誰の対応範囲だったのか」が分かりにくくなる
その結果、支援機関は“調整役”というよりも、“問題対応の窓口”として機能することになり、予防的な関与が難しくなります。
これは、企業・支援機関・外国人材のいずれにとっても負担が大きい状態です。
企業が本当に求めているのは「丸投げ」ではない
企業が支援機関に期待しているのは、必ずしも「すべてを代わりにやってほしい」ということではありません。
実際には、
- 現場で起きていることを客観的に整理してほしい
- 自分たちでは気づきにくいポイントを補ってほしい
- 判断に迷う場面で相談できる相手がほしい
といった、「一緒に支えてくれる存在」を求めているケースが多くあります。
しかし、役割分担が言語化されていないまま進むと、
- これは支援機関が対応する話なのか
- ここまで現場が担うべきなのか
といった判断が曖昧になり、結果として誰も主体的に動きづらい状況が生まれます。
三者で支える体制を“意識的につくる”ことが重要
定着支援を安定させるためには、次の三者がそれぞれの立場で関与する体制を意識的に整えることが有効です。
- 現場:日々の業務指導、コミュニケーション、評価
- 外国人材本人:困りごとの共有、意思表示
- 支援機関:調整、生活面のフォロー、構造的な改善提案
支援機関が主導して、以下のような仕組みを設けることで、役割の偏りを防ぎやすくなります。
- 定期的な情報共有の場を設け、現場・本人・支援機関それぞれの視点をすり合わせる
- 現場向けに継続的なサポートを行い、教える側の負担を軽減する
- 本人からの相談内容を、現場に共有しやすい形に整理する
- 評価やフィードバックの流れを整理し、認識のズレを減らす
「誰が・どこまで・いつ関与するのか」が共有されている状態では、問題が大きくなる前に対応しやすくなり、定着率も安定しやすくなります。
支援機関がすべてを担う体制でも、企業が単独で背負う体制でもなく、三者が役割を分担しながら支える形が、実務上も持続しやすいモデルと言えるでしょう。
定着率を高めるために意識したい視点
外国人材の定着は、特定の支援メニューだけで左右されるものではありません。
現場での経験と生活の安定、その両方が関係しています。
支援機関の価値は、これら二つの領域をつなぎ、企業と外国人材の間で情報や認識を整理する点にあります。
派手な施策よりも、現場や生活に対してどのように関わるかを丁寧に設計し、継続していくことが、結果として企業からの信頼につながっていきます。
定着支援は「誰かが悪い」という話ではなく、「どのような構造をつくるか」という視点で考えることが重要です。その積み重ねが、企業・外国人材・支援機関の三者にとって無理のない関係を築く土台になります。
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